2024年4月に開催されたナミブレース(ナミブ砂漠マラソン)4日目の記録。
Bad News
「Hello, everyone!! Sory, we have a bad news.」
朝、スタートの準備をしていると拡声器で選手たちに声がかけられる。
「Yesterday’s high temperature was 47 degrees. And it will be hotter today.」
昨日の気温47℃を超えてくる…。
あまりにも予想通り過ぎる展開に笑ってしまった。
周りの選手も苦笑い。
これまでの3日間で常識が通用しない環境ということは嫌というほど実感した。
最終日に向けてさらに過酷になることは全員覚悟している。
お知らせ通り、朝9時にも関わらず結構な暑さ。
というか、昨日の熱が身体から抜けきっていない。
今回のレースは過去に例がないほど夜間が暖かいらしく、本来ならできるはずの夜間冷却ができず…。
偶然か、地球温暖化の影響か…。
後者だとしたら、近い将来砂漠レースはできなくなるかもしれない。
月の丘
今日はスタート直後からアップダウンが続く。
Moon Valleyと呼ばれる地帯で、その名の通り月のような景色が広がっている。
美しい光景に何度も感動するが、3日間の疲労は隠せない。
日影があるだけマシだが、朝からアップダウンの連続は結構堪えた。
出典:Racing The Planet
同じナミブ砂漠でも毎日コロコロ景色、サーフェスが変わる。
絶対に選手を飽きさせない、でも過酷さはしっかり維持するコース設計にあっ晴れ。
ナミブ砂漠の固有種 奇想天外
CP1通過後、景色は一転してゆるーいアップダウンが続くロード。
強烈な日差しに焼かれながら、逃げ場のない道を延々と進む。
この環境の中で走り続ける上位陣はバケモノだろう。
彼らは何か特別な訓練を積んでいるのか?
素人感覚だと努力で何とかなる範囲を超えている。
体質が特異なのだと思わざるを得ない。
私がこの環境で1kmでも走り続けたら、すぐに熱中症で倒れて砂漠の砂と消えるだろう。
環境がイカれていれば、それに適応する植物もイカれている。
こちらはナミブ砂漠固有種のWelwitschia mirabilis(ウェルウィッチア)という植物。
和名は「奇想天外」。
寿命は1,000年以上あり、長い個体だと2,000年生きるらしい。
この環境の中で2,000年…。
もう意味が分からない…。
植物と自撮りする男。
もう二度と見れないだろうし、いくらキツイ環境下でも撮らないとね?
CP2まで数百mの場所に日影があったため、コースを外れて休憩。
10分も歩けばCPの日影、水にありつけるが、そこまでとても耐えられない。
ヤバいと思ったとき、日差しから逃れられる場所があるなら即休憩。
少しのヤセ我慢から取り返しのつかない事態になってしまう可能性も十分にあり得る。
ここでリタイアしたら死んでも死に切れん。
54℃
CP2に到着したが、私含めて選手は既にグロッキー状態。
時刻は13時。ここから更に熱くなる時間を迎えるのか…。
正直、出発したくない…。でも行かないとゴールできない…。
コースは川が干上がったエリアに入り、これまでは無かった樹木が出てきた。
普段は何とも思わないが、灼熱の砂漠地帯では恵みの日影を作り出してくれる有難い存在。
30分歩いて20分休憩。
身体は既にオーバーヒート状態でまともに歩き続けることもできない。
休憩のたびにシューズを脱いで少しでも放熱。
なけなしの水を使って手拭いを濡らし、首筋を冷却した。
この時、気温は54℃。
日影でも44℃あったらしい。
聞いたところで、もはやイメージできない気温。
居るだけで命を削られてる感じがした。
人間が居てはいけない環境です。
出典:Racing The Planet
前後する選手たちと声を掛け合いながら、死ぬ思いでCP3にたどり着いた。
熱は冷めず…
CP3で1時間以上の休憩を取り、気温が下がり始める16時に出発。
しかし、1度オーバーヒートした身体は冷めず、何度も休憩しながら最後の10㎞を歩いた。
出典:Racing The Planet
昨日も死ぬかと思ったが、今日はそれ以上に死ぬかと思った。
本当に毎日過酷さを更新してくる。
明日は80kmを一気に進むロングマーチ。
このレース最大の山場だ。ここまで来ると一周回って楽しみになってくる。
夜、そろそろ寝ようかというタイミングで「選手全員こちらに来い」とアナウンスが入る。
ワラワラと集まってきた選手たちの目の前で突然の点火。
バカでかいキャンプファイヤのお披露目です。
この規模のキャンプファイヤは初めてかも。
それなりに距離があるのにメチャクチャ熱い。塞の神の比じゃない。
ナミビアンのスタッフたちが歌い踊りながら、火の回りを歩く。
選手は皆疲れていましたが、キャンプを盛り上げるパフォーマンスに大喜び。
本当に楽しい夜だった。
今思い出してもこの時に戻りたいと思ってしまう。
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