ナミブレース Stage5:The Long March of a Prospector(82.2km)

Namib Race 250km

2024年4月に開催されたナミブレース(ナミブ砂漠マラソン)5日目の記録。

長い一日の始まり

レース5日目はこれまでの距離の倍、82㎞を一気に進むロングマーチ。
2022年のコース刷新で、疲労の溜まったレース終盤にロングマーチという鬼畜仕様になったらしい。
(それ以前はステージ3か4だった。)

朝から涼しい風が吹いている。
絶対に昨日よりヤバくなると覚悟をキメたはずだったが、今日は少し涼しくなるのではないかと期待してしまう自分がいる。

CP1まではダラダラとしたアップダウンが続く峠道を歩く。
日差しはあるが、涼しい風が吹いていて快適に進めた。

出典:Racing The Planet

ステージ3、4より明らかに序盤の消耗が少なく、皆元気に歩いている。
この風が続けばイケると期待は更に膨らむ。

逃げ場のない熱風

順調にCP1に到着。
気温が落ち着いているうちに、風が吹いているうちに少しでも進もうと、休憩もそこそこに出発。

CP1以降は台地のような、少し高いエリアを延々と進み続ける。
気温はジリジリと上昇し、さっきまでは味方だったはずの涼風も猛烈な熱風となり行く手を阻む。

追い風だったらまだマシだったが、残念ながら向かい風、横風として襲い掛かってくる。
荷物が大きいため、抵抗も大きくかなり消耗してしまった。

台湾チームがトレインを組んでいたので、声をかけてトレインに乗せてもらった。
彼らの歩くペースは速く、トレインに乗れたのは単位時間だったが、それでもだいぶ助けられた。

まだ時間は午前中…。
これからさらに暑くなると思うと…。

地獄の丘越え

CP2は小さなテントが1つ。
太陽も登り切っており、影は真下にしかできない。
あまりの暑さ、熱風に消耗した選手たちが身体を無理やり日影に突っ込んで休憩している。

この時の時刻は13時。
この5日間で一番、序盤20㎞歩くのに時間がかかっていた。
CP3は標高を322m上げた丘の上。
これから更に暑くなる時間なのに、もう嫌な予感しかしない…。

意を決して出発するも、この環境下での登りは本当にヤバい。
少しでも心拍数が上がると歩くペース、水分補給のリズムが狂ってしまうため、足元だけを見て、思考を止めて歩き続ける。

余裕がなく写真はないが、1つ目の丘を越え、行く先に給水車が見えなかった時は絶望した。
その瞬間、心拍数がドッと上がったことを覚えている。
人間って動揺するだけでここまで心拍数に影響あるんだな…と謎に冷静になっていた。

何度か岩陰に身体をねじ込んで休憩し、何とかCP3直前の丘に到着。
振り返るとなだらかな丘ですが、登っているときは壁のように見える不思議。

峠の最高地点を通過。
お昼過ぎまでビュンビュン吹いていた熱風もいつの間にか止んでいた。

ようやくCP3に到着。
時刻は16時10分で9㎞進むのに3時間もかかってしまった。
CP3の関門40分前くらいであまり余裕もない。

余裕がなくても、ここで大休憩を取らない選択肢はなかった。
荷物を下ろし、シューズを脱ぎ、シャツを脱いで放熱する。
少しでも熱を抜かないと動くことができない。

ここで渡されたぬるいコーラが人生で一番美味かった。

砂漠の夕暮れ

関門タイムギリギリまで休憩し、何とか動くだけの元気は回復したため出発。

登りはゆるやかな丘という印象だったが、下りはテクニカルな岩山だ。
ここまで200㎞歩いてきた身体には辛いものがある。

山を下りきるとまた荒野を進む。
陽が傾き始め、気温も落ちてきた。

路面は締まっていて歩きやすいが、足跡が残らないためコースを外れそうになる。
遥か遠くに先行する選手が見えるため、それを頼りに進み続けた。

休憩で多少戻ったとは言え、身体にまだ熱が残っていたためもう一度休憩。
時間がかかったとしても確実なゴールを目指す。

さっきまで登っていた山が夕日で美しく染まっていく。

雲一つない空で今夜も満点の星空は確定。
先はまだまだ長いが、ナイトハイクが楽しみで過ぎてテンションが上がる。

星空散歩

日没後はナイトハイク。
木の棒に巻かれた反射テープだけを頼りに進み続ける。
一見頼りなさそうに見えるが、かなり遠くからでも反射してくれるため道に迷う心配はない。

上を見上げると満点の星空。

日本のアルプス登山でも、満点の星空というのは見てきたが、比にならんほど美しい。
ヘッドライトを消すと、まるで宇宙を歩いているかのような感覚になった。
あれ以上の星空は再び砂漠レースを走らない限り見れないと思う。

深夜2時頃、地平線から大きな赤い月が昇ってきた。
周囲に誰もいないアフリカの砂漠ど真ん中、赤い月と星空に照らされながら歩く。
素晴らしい体験だった。

朝4時頃に無事フィニッシュ。
長い長い1日が終わった。

フィニッシュ後は砂だらけになった足を流す。

左足裏の水ぶくれは水抜きしているが、今日の80㎞でまた水が出てきた。
少し痛いくらいで歩行には問題ない程度で助かった。

これで250kmのうち240㎞が終了。
最後は10㎞のパレードランのため、この時点でほぼ完走が確定した。

この5日間で一番苦しい展開だったが、トラブルなくゴールできて良かった。

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